小説セックス 体験版

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【まえがき】


※[ご注意ください]



【あらすじ】


 私にはとても悩ましい小説家仲間が一人いる。

 彼は文武両道で、他を圧倒する筋骨と肉塊がそれだけでもこちらを魅惑して止まないというのに、こともあろうか私の大好きな顔をしている。

 私は彼を視界に捕らえるとつい彼を見詰め続けていたくなってしまう衝動が抑えられなくて困っている。


 そんな彼がネタに行き詰まった小説家同士で一緒に執筆活動をしてみないか、と、私を家に呼んでくれた。

 ネタに困っている私が彼の提案を断る理由など塵一つも無いのだが、だが、実際に彼の家を訪れてみたところでやはり困ったことになるのだ。


 ……ネタなんか思い浮かぶ訳が無いだろう。

 大好きな彼を目の前にして、私の頭の中が彼のこと以外何も考えられなくなってしまうのは至って当然の成り行きだった。

 せっつかれるような視線に困りながらも、こちらに向けられる大好きな顔の誘惑に耐えきれなくなった私は開き直って、今の私の中にある煩悩の全てをこのノートパソコンにぶち撒けることに決めたのだった。


【目次】


表紙

まえがき

あらすじ

第1章 書く覚悟

第2章 小説セックス

第3章 夢から覚めて

奥付

第1章 書く覚悟

 今、私は、一人の小説家とお互いに斜めに向かい合わせになって、ノートパソコンを拡げている。

 そして、一応は私も小説家の端くれだったりする。いや、知名度や実績は今は(そして永遠に)問わないでいただきたい。

 ネタに行き詰まった小説家同士、こうして面と向き合ってお互いを題材に小説を執筆してみよう、という現状打破へのチャレンジだ。

 『お互いを題材に』とは言ったが、何かしら別の題材が見つかったとしたらそれを採用して構わない、ということにはなっている。

 要するに、お互いに向き合う、という特殊な環境に身を置くことで、いつもとは違うインスピレーションを得られないだろうか、という思考試行なのだ。


 私は困っていた。

 今、私がこうして彼の目の前に居るということは、間違いなく私もネタに行き詰まった一人の小説家であり、向かい合わせで執筆してみようという彼の提案を断る理由が一つも無かったということに他ならないわけだが……。

 こうして、目の前でノートパソコンと格闘したり、腕を組んで瞑想したりしている彼を見ていると、私の頭はいつにも増してもやもやとした混沌を極めていたのだった。


 題材が何も思い浮かばない。

 ……いや、嘘を付いてはいけないな。

 私の頭の中が全くすっきりとしていなくて、何の考えもまとまらないことは事実なのだが、実は一つだけ、今に限らずいつもぼんやりと頭のど真ん中に居座り続けている構想が朧気ながら在った。

 本当は構想なんて大それたものではない。ただの妄想であり、ただの煩悩である。

 そんなものを素直に採用してしまって良いものか。

 判断、いや、覚悟に惑う。


 ……刻々と時間だけが過ぎて行く。

 ヴェンティに溢れんばかりのガムシロップとポーションミルクを詰め込んでテイクアウトしたアイスコーヒーは既に極端に薄い砂糖油水となってしまっていて、コースターすら敷いていない机には溢したみたいな水溜りが。

 コップを持ち上げるたびに水滴が底の縁に付いてきては落ちて、ノートパソコンに落としてしまわなかったかと心配してキーボード面を見渡す。

 それから、流れでそのまま目を流して、ふと、斜め前の彼に目を遣る。


 別にそこには躊躇ためらいなんて無い。はずだ。そういう決まりだ。

 『お互いを題材に』という名目でアイデアを降らせてみようという企画にお互いが乗っかって実現した今日なのだから。


 彼は前のめりになって液晶の画面を覗き込んだり、天を仰ぐようにふんぞり返ったりして、そして時折キーボードを打つ。

 そんな様子を私はぼんやりと盗み見ているみたいな斜視目線で眺めているだけだ。

 彼だけが、この会合の中で一歩ずつ進展して行っているのだろうか。


 突然、真剣な眼差しが私の、いつにも増してどんよりと曇っているまなこに飛び込んで来た。

 当然、私は不意打ちを食らったかのようにドキリとした。

 真剣な瞳というのは、いつでも見透かされた気分にさせられるから困る。

 今回は同時にせっつかれたような気にもなったから、私はさらに困る。


 『お前はまだ書かないのか?』と。

 『お前の頭いっぱいに広がっているその題材を書かないのか?』と。


 私は誤魔化すように両手をキーボードに置いた。

 テキストエディタの画面だけは最初から全画面で開きっ放しにしている私のノートパソコンは、既に何度もスリープに落ちてしまっている。

 今もこうやって何かを書き出すようなふりをしてキーボードを叩いてみたけれど、実はスリープから復帰させているだけだったりするのだ。

 がっつりとカスタマイズしたエディタの画面は、一文字も書き出す前から、一行ごとに僅かに変えている背景色が反映されていてストライプ模様だ。

 清書する際に改行位置になるであろう桁にガイドラインが引かれ、現在編集位置を分かり易くするための縦線が一番左に、横線が一番上に引かれて、カーソルの点滅が一秒の経過を淡々と伝えて来る。


 別に必ず彼を題材にするという決まりがあるわけではないのだし、彼とは違う名前の主人公にしよう。

 そうやって逃げて、私の心は固まった。


 題材はそう、ある一定の人たちがやたらと蓋をしたがる、シモの話だ。

 人間である以上、どうしても切り離せないことなのに、ムヤミヤタラと切り捨てられる、シモの話だ。

 普段は、ノーリスクの場でだけ声のデカい偽正義を嬉々として振り回す他者断罪大好き人間たちの食い物にされないために仕方なくこの手の話は避けることにしている私だが、今、私の頭ではっきりと文字に書き起こすことができるのはこれだけだ。

 そして、コレを書き出さないことには、コレがいつまでも私の頭の中を占拠し続けてしまう。

 そんな気がしてならないのだ。


 だから、発表するしないは別にして、とにかく私は書くことにした。

 彼、との……セックスの話を。

 申し訳程度の透明アクリル板と、ノートパソコン二台分を間に挟んで、これ以上決して距離が縮まることのない彼と、私は離れたままここでセックスをする。


 私はキーボードのホームポジションに両手をセットした。

 セックス、開始。

第2章 小説セックス


(こちらは体験版です)

第3章 夢から覚めて


(こちらは体験版です)


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小説セックス


OpusNo.Novel-085
ReleaseDate2023-07-28
CopyRight ©山牧田 湧進
& Author(Yamakida Yuushin)
CircleGradual Improvement
URLgi.dodoit.info


個人で楽しんでいただく作品です。

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(こちらは体験版です)

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