0と1の間 体験版

Cover


【まえがき】


※[ご注意ください]



【あらすじ】


 何気ない出会いから、哲也の魅力にどんどんと惹き込まれていく裕文。しかし、その気持ちが何なのか分からないまま卒業という別れのときを迎えようとしていた。

 デジタルな世界の中で、割り切れない想いに戸惑う裕文に哲也は……


【主な登場人物】




【目次】


表紙

まえがき

あらすじ

主な登場人物

0と1の間

奥付

0と1の間

 ズッチュ、ブチュ、ズズュ、……

 渾身のストロークを打ち込み続ける。

 俺の目の前にある、とてつもなく大きな背中にボタボタと熱い雨が降る。

 だがそれは、汗ではない。涙だ。

 今、俺は好きで好きで堪らなかった奴を抱いている。

 願いが叶ったんじゃない。

 これは奴が望んでいないレイプまがいの行為。

 決裂のセックスだ。


 『出会わなければ、こんな想いすることも無かった』




 俺が奴と初めて口を聞いたのは2回生のとき、実習の時間だった。

 かなりの実力を必要とされる割には知名度が高くない某国立大学の情報処理学科。

 そこに一人だけやけにデカくて目立つ奴、それが哲也だった。

 プログラミング実習の時間、早々に課題を終えて暇を持て余していた俺を見つけて奴は質問してきたのだった。

「なあ、終わってるんだったら、ちょっと教えてくれないか?」

「ああ、構わないよ」

 俺は奴の端末の方に席を移動した。


 元々、目立つ奴だったから存在は知っていたけれど、近くに寄ってみると本当にゴツい。

 一般的なデスクトップPCのディスプレイを覗き穴でも見ているかのように猫背で覗き込み、フルピッチの標準キーボードがまるでミニタイプみたいだ。実際、奴には小さ過ぎて打ち辛いのか、タッチタイプもおぼつかない感じだった。端末室の肘掛け付きオフィスチェアだと、奴が立ち上がるたびに椅子がくっ付いていってしまう。

 奴のぶっとい指がディスプレイを指すと、

「ここのロジックなんだけどさぁ、たまに正常に動作しないときがあるんだよ。原因が掴めなくてさ」

「正常に動作することの方が多いんだろ? そういうときは変数の値が閾値近辺にあるときの動きに着目してみると良いよ。例えば、この変数って0以下と、1から99と、100以上の場合で異なる処理に分岐するだろう? これが本当に0で0以下の場合の処理に行くか、1で1から99の場合の処理に行くかって確かめるんだ。……ってこれ、値がマイナスのときに何も動かないじゃん」

「えっ? どれどれ? あっ、やべー本当だ。0以下って条件なのに0しか当てはまらないように書いちゃってるよ。うわー、しょーもなー。ゴメンな、こんな詰まらん凡ミスのデバッグに付き合わせちゃって」

「まぁまぁ、バグってのは大抵気付いてみれば凡ミスであることが多いから仕方ないよ」

「それにしても、手慣れてるなぁ」

「まぁ、ほら、プログラムって人力では効率の悪い大量処理を行うために組むことが多いだろ。だから、闇雲に原因を追究しようとしても時間を食っちゃうだけになりやすいんだ。だから、人がプログラムミスを犯しやすいところを中心に当たりを付けて行かないとな」

「そっかあ、プログラムを組めるようになるだけじゃ全然足りないんだな」

「まあな。プログラムを組んだところで終わっちゃう奴の方が圧倒的に多いけどな」

「あっ、ごめんな。順番逆になっちゃったけど、おれ、瀬木根哲也。また、たまに教えてもらっても良いかな」

「構わないよ。俺は中村裕文。よろしく」

「え、中村って、いつも成績一位の、あの中村?」

「まあ、そうだけど。なんで知ってるんだよ」

「いつも成績表の文字のすぐ下に書いてあるんだもん。覚えちゃうよ」

「そっか」

「おれ、ラッキーだな。こんな優秀な奴に教えてもらえるなんて」

 こうして、俺と奴の付き合いは始まったんだ。


 すぐに仲良くなって、教室の移動も一緒、昼食も共に取るようになった。

「哲也って、凄いゴツいよな」

「ああ、これな。育ち過ぎちゃってな。不便なもんだよ」

「そうか? 俺デカい身体って憧れちゃうけどな」

「いや、既製品にピッタリ合うサイズが一番だよ。おれ、マグカップの取っ手に指が入らなかったりするんだぜ。不便極まりないよ」

「そうか、そりゃ大変だなぁ」

「風呂だって、下手に入ると風呂桶に嵌まって抜けなくなっちゃうから、いつもシャワーだけで我慢してるんだぜ。服も選べねぇし」

「はぁ、なんか可哀想になってきたな」

「そうだろ。哀れんでくれよ。哀れみの目でおれを見てくれよ」

 哀れなヒロインを演じています、みたいなポージングでお茶らけながら語る哲也。

 大きな身体とのミスマッチが笑えるが、なぜか俺はドキッとしてしまう。

「おれ、立ち止まるとすぐにランドマーク扱いされちゃうんだぜ」

「あああ、もう可哀想過ぎてこれ以上聞けねぇよ。俺、普通で良かったって訂正させてもらうよ」

「だろ?」

「でも、その身体を生かして、スポーツとかやってりゃ良かったんじゃないか?」

「ああ、……まぁ、肩壊しちゃってな」

 平然と語る哲也。何か酸いも甘いも知り尽くした大人のような渋さがにじみ出る。

 俺は何かもっと哲也のことを知りたい。哲也の全てを知りたい、と思い始めていた。

「ごめん。なんか俺、悪いことばかり聞いてるな」

「全然構わないよ。おまえ、知らなかったんだから、仕方ないじゃん」

「ん。それで情報処理か。でもなんで情報処理を選んだんだ?」


(こちらは体験版です)


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0と1の間


OpusNo.Novel-006
ReleaseDate2014-10-07
CopyRight ©山牧田 湧進
& Author(Yamakida Yuushin)
CircleGradual Improvement
URLgi.dodoit.info


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(こちらは体験版です)

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