縁の下と上 体験版
【まえがき】
※[ご注意ください]
【あらすじ】
奇しくも、同じ生年月日を持ち、同時期に同じ部屋へと入門した若い二人。
一緒に頑張って上を目指そうと意気込むも、二人の番付の差は広がっていく一方だった。
春元は関取に、吉内は序二段に留まったままで迎えた成人。
春元の成人祝いと称した関取衆だけの飲み会の中で吉内の話題が出ると、関取衆は吉内も祝おうと呼び出した。
しかし、呼び出された吉内は『番付も上がらないのに辞めない奴は男好き』と決め付ける関取衆に輪姦されてしまう。
春元は距離を取って無関係を装ったが、先輩関取の指図により結局は春元も吉内を犯してしまうことになった。
完全に崩壊したかに見えた二人の関係。
しかし、事態は意外な方向へと動き出し、かつて同等だった二人は、全く異なる立ち位置から同じ目標に向かって進む強固な絆を持った親友となっていく。
早い出世、大横綱、部屋持ちの親方と、表舞台をひたすら歩んで行く春元。
その縁の下には、序二段止まりの、しかし、春元には欠かせない唯一無二の相棒、吉内の存在があったのだった。
【目次】
「本当に、お疲れ様でした。そして、本当に、……本当に、ありがとうございました」
親方の目には涙が。そして、親方は白髪頭を下げて深々と長い御辞儀をした。
部屋を持つ八重親方が定年により退職となる同日、部屋を去るもう一人の男がいた。
部屋付きの年寄でもなければ、若者頭でも、世話人でもない。
協会の正規な雇用ではない、親方に直接雇われていたマネージャーだった。
たまたま、親方と同じ生年月日であったこともあり、親方と同じ日にこの部屋を去ることを決めた。
その八重親方が、涙ながらに労いの言葉を掛けたという人物。その通り名を『溜吉』(ためきち)と呼ぶ。
春元(八重の本名)、
偶然にも、生年月日までもが同じだったこともあり、すぐに打ち解けた二人だったが、力士としての出世には大きな隔たりが出来てしまって、間もなく、その間柄はとても希薄なものへと変わっていってしまった。
出世の早い春元は、あっと言う間に関取になってしまい、吉内の方はずっと序二段より上には上がれなかった。
部屋内での春元の人付き合いは関取同士の付き合い、すなわち、先輩力士との付き合いが中心となってしまって、付き人でもない、遠く番付の離れてしまった吉内とは、稽古でもすれ違うことがほとんどで、風呂やちゃんこも時間がずれ、居室も個室と大部屋で分かれてしまっていて、意識的に会おうとしない限りは、部屋の中でも接点がほとんど無くなってしまっていた。
春元には複雑な思いがあった。
せっかく、偶然にも、生まれた日が全く同じ奴と同時期に同じ部屋に入門ができて、『よし、二人で頑張って上を目指そう!』と意気込んでいたのに、俺ばかりが番付を上げていく。
あいつとの番付が離れるたびに、『なんだよ、もっと頑張ろうぜ』という励ましが、『お前には頑張る気が無いのかよ』という憤りに変わり、同じ言葉のまま、諦めに変わっていった。
吉内はおとなしい性格で、身体も凄く大きいというほどでもなく、どうして相撲界に中卒で入門してきたのか、正直、疑問に思うところがある。
誰だって、何かしらの可能性が見えているからこそ、こんな極端な世界に入門してきているものだろう?
そうとばかり考えてしまっていた春元だったのだが、その本当の事情を春元が知るには、まだ数年の時を経る必要があった。
入門から5年近くが経過して、二人共に二十歳を迎えていたある日、珍しく関取衆が部屋内で集まって酒を酌み交わしていた。
名目は、春元の成人祝いだったのだが、要は、関取衆は飲むネタが欲しいだけだったみたいだ。
常人には致死量に値するほどの量を呑んで、ほろ酔いになった関取は悪ふざけを始める。
「春ちゃんも大人になったんだから、酒も女も、やりたい放題なんだぞ~」
「今度、良いところ教えてやろうか、春ちゃん」
「なんなら、今から、いっちょ繰り出しに行っちゃいますか、ねぇ、春ちゃん」
あまり酒に強くなかった春元は、既に自身の適量を超えて少し気持ち悪くなってしまっていた状態で、先輩関取達の下劣な戯言をやや引いた目で受け流していた。
「それよりさぁ、ほら、あの、春ちゃんの同期居たろ? 吉内、だったっけ? あいつ、春ちゃんと誕生日一緒なんだろ? あいつにもちょっと喝入れてやった方が良いんじゃないかなぁ」
「あぁ、あのずっと序ノ口の奴だろ? やる気あんのかね? あいつ」
春元は思わず口を挟んだ。
「序二段です」
確かに、春元も吉内のことはとっくに諦めていたつもりだった。でも、こうして他の人に吉内のことを悪く言われることには、まだ少し抵抗があった。
まだ、心のどこかで諦めきれていないところがあったんじゃないか、と春元自身がそう思っていた。
それでも、関取衆はそんな些細な間違いの指摘など気にも留めずに、戯言を続けていた。
「おう、それじゃあ、今から吉内呼んでこようぜ。一発、仕込んでやらなきゃな」
「おう、行こう行こう」
「んじゃ、オレは一式用意しておくわ」
三人が一斉に立ち上がって、二人は吉内を呼び出しに、一人は何らかの準備に向かおうとした。
春元は何やら嫌な予感がして、関取衆を呼び止めようとした。
「あ、あの、まさか、『可愛がり』、とかじゃ、無いですよね?」
春元は、関取衆が酔った勢いで吉内に集団リンチをするのではないかと、心配していたのだ。
「なあに、ただの成人祝いだよ。春ちゃんが成人したんだから、あいつも成人だろ? あいつも呼んでやらなきゃ不公平じゃないか」
そんな、こんな時だけ優しい先輩面で正論吐かれても、と思う春元だったが、そこに何かを言い返せるほどの考えも言葉も、そのときの春元は持ち合わせていなかった。
(こちらは体験版です)
(こちらは体験版です)
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(こちらは体験版です)
(こちらは体験版です)
(こちらは体験版です)
縁の下と上
OpusNo. | Novel-040 |
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ReleaseDate | 2017-01-28 |
CopyRight © | 山牧田 湧進 |
& Author | (Yamakida Yuushin) |
Circle | Gradual Improvement |
URL | gi.dodoit.info |
個人で楽しんでいただく作品です。
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(こちらは体験版です)