雪男 体験版
【まえがき】
※[ご注意ください]
【あらすじ】
雪国の共学制高校の寮、卒業まで最後の一週間。ただの友達だったはずの仲間内に一波乱が起きた。身体は大人以上に大柄でも、まだまだ学生気分で子供だった雪男(幸央)はその出来事の中心人物となり、否応なしに大人への階段を一歩、登ることになった。
冬の北国は、雪に閉ざされると何もすることが無くなる。
高校三年生の冬、寮で過ごす冬はこれで最後だ。
進学を希望するものは、そんな風にのんびりと感慨に耽る暇も無く、受験勉強に勤しんでいる。
そうでないものは毎晩、自然と居室へと集まってくる。
個室にはベッドと机と勉強道具しかない。何をするわけでも、何ができるわけでもないこの薄ら寒い空間に独りで篭っている意味は全く無い。
だから、みんな居室に集まって就寝の時間まで、遊んだり話したりして暇を潰すのは当たり前のことだった。
僕の幼馴染でもあり、家業を継ぐと言う、亮太。やはり家業を継ぐために実家に戻ると言う、良和。雄大と和枝はとりあえず一旦東京に出て自活してみたいと言っている。博美は東京に出るつもりも無いが、他に特にすることも無いので、差し当たり実家で家事手伝いをするのだそうだ。そして、僕、幸央は、これからのことについて、未だに何も決められていない。
僕は優柔不断で、いつもなんとなく亮太にくっ付いて歩いている、そんな子供だった。そして、それはそのまま高校まで引き摺って、亮太と同じ高校へ進学、そして入寮までしてきた。
亮太はそんな僕を特に嫌がるでもなく、普通のこと、当たり前のこととして思っているみたいだった。
僕はちょっと目立つくらい大柄で、おっとりとしているものだから雪男「イエティ」というあだ名が付けられていた。名前も漢字が違うとはいえ、読みはまんまだ。雪国の生まれでちょっと出来過ぎなくらいのキャラの嵌まり具合が、唯一、僕をハッキリと定義付けるものだったかもしれない。
僕は気の利いたことも言えない、口数も少ないつまらないキャラだったが、みんなは仲良くしてくれた。「イエティはそれで良いんだよ」って、みんな言ってくれる。僕の方も、ただ、みんなの話が聞けて、ニコニコとしていれば良かったから気が楽だった。
亮太は一応、居室には集まってくるものの、それほどみんなに迎合しようという意識はないみたいで、話題からあぶれても平気な顔をして、我関せずといった感じだ。それでなくても亮太にはいつも、独立心の強さと決断力の高さを見せ付けられていて、みんなの中でも頭一つ抜け出して大人の雰囲気が漂っている。
良和と雄大はちょっと敵対心があるみたいだ。ちょいちょい、言い争いになる。大抵は些細な事柄について、俺の方が優れているという見栄の張り合いで、こんな小さなことで男の闘争本能を剥き出しにするなって博美と和枝にたしなめられるのが落ちだった。
博美は若干すれた感じがする女性だ。綺麗な外見をしているから、都会へ出たらさぞかしモテるだろうにと思うのだが、本人曰く、もうそういうのはうんざりなんだとか。だから、都会に出る気はさらさら無いと言っている。
対して、和枝は夢見る乙女だ。容姿は平凡で、考え方もごく普通の女子高生の範疇に納まるのだろう。未知の都会に憧れて、そこには夢のような生活が待っていると信じて疑わない、ある意味幸せな女の子と言えるだろう。
一体どれだけ降れば気が済むんだろう、と、こちらの気が萎えてしまうほどの豪雪の夜、いつもの居室にはいつものメンバーが揃っていなかった。
「あれ? 今日は少ないね」
僕はそう言いながらも、冷気が入ってこないようになるべく素早く扉を閉めながら、居室へと入った。
「これから来るんじゃないの?」
和枝は意に介さずに言う。良和と雄大はいつもどおりの刺々しい雰囲気を醸し出している。
しばらく四人で他愛も無い話をしていたのだが、亮太と博美が来る気配は一向に無かった。
「あいつら、できちゃったのかな?」
良和が言うと、
「毎日、合コンみたいなことしてりゃ、当然そうなるわなあ」
雄大が返す。でも、その一言はちょっと、この、男三人、女一人という状況下においては言っちゃいけない、いや、言うにしても、もう少し言い方を考えなければいけないような言葉だった。
場の空気が微妙になる。こういうとき、僕は心の中でどうしようと慌てながらも、何も出来ずに、オドオドとその様子を見守っていることしかできない。
和枝は気を利かせたのか、本心なのか分からないが、
「私は貴方達を男とは思っていませんから、もう、合コンは成立していないんで安心してください!」
若干不機嫌な顔で言う。そりゃそうだ。なんでこの微妙になった空気を、全く責任の無い、そして、残されたただ一人の女性である和枝がフォローしなくてはいけないのか。それくらいは僕にも分かることだ。
なのに、
「そりゃ助かるよ。これ以上、人数減ったらこの部屋も寒くて仕方ないしな」
と、良和が一見普通で、でも、受け取り方によっては失礼とも取れる発言をし、
「俺も和枝はゴメンナサイなんで、丁度良かったわ」
なんて、デリカシーのかけらも無い返しを雄大が重ねたものだから、ついに良和が切れて、
「お前なあ、ものには言いようってものがあるだろ」
と、また良和と雄大の口喧嘩が始まってしまった。
こうなると、残されたのは僕と和枝だけで、僕も相変わらず気の利いた一言も言えないから、お互いに口喧嘩の様子を見ているだけだ。
なんだか、その雰囲気にいたたまれなくて、僕が
「あの、」
言いかけると、なぜか二人の口喧嘩がピッタリと止まる。
「僕が、ちゃんとフォローしなきゃいけなかったよね……」
最後まで言い切る前に、
「イエティはここに居てくれれば、それで良いの」
「イエティはここに居るだけで良いんだよ」
「イエティが気を遣わなくても良いんだよ」
口々に言われて、吃驚した。矛先が一斉に自分に向いたような気もしたが、内容はむしろ僕の非を否定してくれるフォローだ。それにしても、僕はそんなにも必要とされていないのかなと思って、
「僕はマスコットか何かなの?」
と言うと、
「マスコットと言うより、暖房器具だな」
「暖かいしね」
「ねー」
なぜか、三人がまとまる。暖房器具って……。でも、雰囲気が良くなったのなら、それでも良いか。
結局、いつもみたいに就寝時間が来て、それぞれの個室へと戻っていったわけだけれど、今後も、もし四人なんだとしたらちょっと寂しいし、今日みたいにちょっと大変になったりするんだろうなと思っていた。
(こちらは体験版です)
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雪男
OpusNo. | Novel-004 |
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ReleaseDate | 2014-09-02 |
CopyRight © | 山牧田 湧進 |
& Author | (Yamakida Yuushin) |
Circle | Gradual Improvement |
URL | gi.dodoit.info |
個人で楽しんでいただく作品です。
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(こちらは体験版です)