みにくいアヒルの水泳男子 (体験版)

Cover


【まえがき】


※[ご注意ください]



【あらすじ】


 憧れだけで止めておけば良かったのだろうか?

 泳げないぽよぽよ色白男子が競泳主体の水泳部に入部しようだなんて。

 豊は嘲笑され、当然のように周囲から浮いた。そして、それだけに留まらず、性的イジメまで受けるハメに。


 豊を水泳部に留まらせる唯一の理由は、ただ一人の味方、豊の憧れである友樹の存在だった。

 しかし、すぐには部活を辞めなかった結果、豊は、友樹を巻き込んだ性的イジメを受けることになってしまう。

 泳ぎを教えてくれた友樹に扱かれて、扱かせてしまい、ついに退部を決意する豊。

 でも、このときの豊はまだ、友樹に特別な好意を持たれていたことに気付いてはいなかったのだった。


【目次】


表紙

まえがき

あらすじ

第1章 泳ぎへの憧れと誘い

第2章 水面下でバタつく足

第3章 藻掻いても引きずり込まれる

第4章 白濁に溺れて

第5章 突き破れた水底

第6章 抜ける幼毛

第7章 ぽよぽよ白鳥(スワン)

奥付

第1章 泳ぎへの憧れと誘い

 金網に食い込ませている手が、肉まんのように見える。

 真っ白なぽよんぽよんの求肥みたいな物体に埋もれかけている瞳が、金網の向こうの勇姿を追い掛けていた。


 デブでカナヅチの、肥沼 豊(こえぬま ゆたか)。

 見つめていたのは公式競技にも使用できる50m公認プール。水泳部の活動で賑わっている。

 まだ5月の連休明けだというのに既に屋外プールでの練習を始めていて、部員達よりも見ている周りの人間の方が寒い思いをしてしまうところだが、豊の心は全く寒さを感じていなかった。

 入部を決めた新入生達も既に部活への参加を始めていて、肌寒い空気と冷たい水に騒ぎつつ若さと気合いで乗り切ろうとしている。

 しかし、豊はまだ心を決め切れないでいた。


 憧れはある。

 記録がどうとか、そんなところまではとても考えられるものではないが、格好良く泳げるようになりたいという願望は結構根強く持っている。

 しかし、競泳を主体とした部に、デブが入部するというのは……。ましてや、カナヅチが入ろうだなんていうのは……。


 豊は、やっぱり諦めようか、と思った。


 しかしそこに、目を奪われるような泳ぎをする人物を見つけてしまい。ついつい、金網に張り付いたままになってしまっていたのだ。


 一言で言って、『筋肉美』。

 いかにも競泳者らしい均整の取れた身体。スマートなのにがっちりしてて、太くないのにひ弱じゃない。

 動きが華麗で、ただただ格好良い。

 豊はそこに理想像を見つけたような気がした。


 僕も、あの人みたいになれたら……。


 その男の名は、速勢 友樹(はやせ ともき)。一つ上の先輩に当たる。

 彼はプールの水面から顔を出すと、すうーっと視線を横にずらしていった。その視線はそのまま豊の張り付いている場所を掠めて通り過ぎて行って、……そして、戻ってきた。

 少しの間、友樹の顔が真正面にこちらに向いていて、豊は気恥ずかしくなり視線を逸らしたのだが、距離は遠いものの二人は数秒間見つめ合う格好になっていた。

 友樹は豊の存在に気付き、凝視した後、何かを決心したかのように、プールから上がって、真っ直ぐ豊の元へと近付いて行った。


 それを見た豊は逃げ出したくなった。

 しかし、これほどしっかりと金網に食らいついていたのに、今このタイミングでその場を離れていこうとしたら、あからさまに逃げたと思われてしまう。

 別に他の人だったら、それでも良かったのかもしれないが、豊が気にしていた友樹本人が近付いて来てしまったがために、逃げるのにも躊躇してしまい、結局、その場を離れることができないまま、豊は友樹と間近で対面することになってしまったのだ。


「入部しなよ」

 友樹は挨拶でも質問でもなく、開口一番に勧誘の言葉を豊に向けて投げ掛けてきた。

 その言動は一見、誰にでもフレンドリーな性格に拠るものだと、一般的には捉えられただろう。

 しかし、正直なところ、友樹は決してフレンドリーと言えるような人間ではなく、むしろ、どちらかと言うと、一人寡黙に練習を続けているような、内向的な人間だった。

 ではなぜ、友樹は豊を勧誘したのか。

 豊が友樹を一目見て格好良いと思ったのと同様に、友樹は豊を一目見て可愛いと思ったからであった。


 友樹には既にゲイの自覚があり、なかでもとりわけ肉付きの良いぽにゃぽにゃした感じの子が好きだった。

 友樹の好みの範疇は、今現在友樹が持っている交友範囲の内では、間違いを起こしたくても起こしようが無いところにあった。

 交友の中心となる部活仲間には、当然のように友樹のストライクゾーンに入る男は存在しなく、そうでなくても、ただ太っていれば良い、というのとはちょっと違うツボを持っている友樹からしたら、そもそも、対象となる男が滅多に居ない。

 友樹のストライクゾーンは狭くて離散しているのだ。


 そもそも、友樹自身が、自分の好みの特徴を分析しきれないでいる。

 どういうタイプが好きなんだろうかと、気になる人をあげつらっていってみても、共通点がほとんど見当たらないのだ。

 やっと、ほぼ確定だなと思えた共通点が、頬の面積が広くてなだらかな人が多いということ。あと、上瞼が分厚くてなだらかで、憂いを帯びた瞳に見えるような表情をする人が多いような気がする、という2点だけだ。

 ただ、だからといって、こういった特徴を備える人ならタイプと言えるのかというと必ずしもそうでもなくて、かといってそうでない人に反応することもあるので、完全な条件とも言えなかった。


 豊はこの2点の特徴を双方とも持つルックスをしていて、かつ、友樹のセンサーをビンビンに反応させた。

 今まで見たこともなかったようなもろストライクど真ん中の生徒が部活に熱心に見入っている。

 見たことがないから、多分、新入生なんだろう。

 こんな可愛い後輩と懇意に成れたら、この学校生活も薔薇色だよなぁ。部活も決まってなさそうだし、これを機にお近付きになれないかな? という邪な心もあって、友樹は豊を誘ったのだった。


 『入部したいの?』と聞かれれば『いいえ』と答えて逃げることもできたのに、いきなり『入部しなよ』と来たから、豊は返す言葉に困っていた。

「あの、でも、その」

「そこで待ってて。今、そっちに行くから」

 別に、友樹が普段から積極的な行動を起こす人間というわけではない。

 新種の生物でも発見したかのような希少で貴重な出会いだったから、この機を逃したくなかったのだ。それに、突っ走れるだけの若さもある。

 友樹は急ぎ気味に金網に沿って更衣室の方向へと歩いて行った。


 一旦距離が離れて、豊は逃げるチャンスを得られた。しかし、やはり、豊は逃げることができなかった。

 そもそも、逃げるにしても、その理由は全て自分の不甲斐なさにあるのだ。

 デブだから、カナヅチだから。

 それ以外は全て、願ったり叶ったりの流れにあるのだ。

 格好良く泳げるようになりたい、友樹のことをもっと知りたい。


 友樹が金網の豊と同じ側から近付いて来る。

 友樹は100均のものっぽいビーチサンダルを突っ掛けただけで、何も羽織らずに来た。5月上旬に水滴が付いたままの身体で大した運動もせずに長時間いるのは肌寒くて堪えるだろう。だが、友樹の心はそれだけ急いでいたのである。


「おいでよ」

 友樹は豊に手を差し伸べた。

 友樹自身が自分でびっくりしてしまうほどに、友樹は積極的な行動を起こしていた。

 つまりは、それほどまでに豊がツボだったのだろう。

 しかし、友樹は伸ばした手をすぐに引っ込めるはめになった。


「あ、ごめん。こんな濡れたまんまの手じゃ駄目だよね」

 友樹はタオルくらい掴んで持ってくれば良かった、と後悔した。

 それでも、

「部活、まだ決まってないんだろ? うちはまだ入部歓迎だからさ」

 友樹の求愛のような勧誘は続く。しかも、別に入部に期限など無いのに、『まだ』という言葉を使って、豊を急かす念の入れようだった。


「あ、あの」

「ん?」

 友樹は優しい眼差しで伺った。

「僕、駄目なんです」

 豊は要点を言えずに言葉を濁した。

「な、何で?」

 友樹は一瞬にして、病気とか、ましてや不治の病とか、ベタなドラマっぽい連想をしてしまって、少し焦ってしまった。心臓が悪いから体育の水泳でさえ見学しなければならない生徒とか、全く見ないというほど希少なものではないのだ。


 豊は言い出し辛かった。笑われる、バカにされると思ったから。

 豊には何度もそういう経験があった。でも、だからといって、慣れたわけでも、傷付かずに平気になったわけでもない。やっぱり、嫌なのだ。しかもそれが、憧れの人にバカになんかされたら、ショックが大きくてとても立ち直れる気がしない。

 それでも、言わなければ、話は進みも終わりもしないということを豊は重々承知していた。

「あ、あの、僕、お、泳げないんです」

 豊は笑われる想像を勝手にしてしまって、身体を竦めて防御の姿勢に身構えてしまっていた。遠くから見ているだけで良かったのに、何で気付かれちゃったんだろう? という後悔の念まで生じてしまっていた。


 しかし、その言葉を聞いて、友樹はむしろ心を弾ませていた。

「そしたら、泳げるようになるところまで、俺が教えるよ。それでどう?」

 バカにされるどころか、とんでもない懐の広い言葉を返されて、豊の友樹に対する憧れは確固たるものになった。友樹は完全に豊の理想の人になったのだ。

「い、良いんですか。そんな、ご迷惑をお掛けしても」

「うん。俺で良ければ」


 豊が言い訳にしていた入部への障壁はいとも簡単に消え去ってしまった。憧れの人に直接教えてもらえるなんて、しかも、それで泳げるようになれるんだったら、断る理由なんて……。

 多分、それでも、少なくとも他の部員からは笑われるのだろう。でも、この人がバカにせずに居てくれるのなら、耐えていけるのかもしれない。

 いつもだったら人目を気にして消極策ばかりを選択してしまう豊だったが、この貴重な出会いだけは無碍にしてはいけないという思いの方が珍しく勝利した。

「あの、すみませんが、よろしくお願いします」

「あぁ、良かった。それじゃあ、早速、手続きに行こう」

 友樹は豊の気が変わらないうちにと、入部の手続きへと促した。


 端から見れば、友樹はとんでもなく親切で優しい先輩、に映ったのだろう。

 しかし、友樹の本心はむしろ邪な考えで溢れていた。

 マンツーマンで指導なんて、至近距離で手取り足取り、勢い余ってあんなとこやこんなとこも触れちゃったりできちゃうんじゃないの?

 勧誘に成功しても、同じ部員仲間になるまでがせいぜいで、先輩後輩の学年の分断がそれ以上距離を縮めることに対する障壁になってしまうんじゃないかと危惧していたところが、一気にマンツーマンだ。

 なんなら、特別指導とか言って、他の部員が居ないときに練習とかしたって良いよなぁ。んで、本当に、教育的指導を受けちゃうような特別指導をしちゃったりして。

 と、個別指導を負担に思うどころか、デートと考えている節すらあったのだ。


 ただ、友樹は、豊が心配している点も重々承知していた。

 皆からバカにされる。そんな経験を友樹もかつてしたことがあったのだ。


 まだ、友樹本人が自分の性向どころか、性の目覚めさえしていなかった頃。

 なよなよとした言動をしていた友樹はクラス中の皆から『男女』とバカにされた。

 友樹は、何が悪いんだ、と思っていたのだが、皆と一緒でないと不安な人間は徒党を組んで毛色の違う人間を唐突かつ理不尽に排除しに掛かるものだ。

 それから、友樹は当時の付き合いを全て切って、なよなよとした言動を封印し、身体を鍛え始めた。

 そんな経緯があるから、友樹は今でも積極的に友達付き合いを増やそうとはせずに、寡黙に部活に打ち込む熱心な学生を演じ続けてきた。

 そして、自分の性向を知ってしまった今では、友樹は自分のことを、爆弾を抱えているようなものだ、と思っていた。

 全てをひけらかしたら、自分が豊以上に侮辱されてしまう可能性が高い存在であることを、友樹は十分に分かっていたのだった。


 友樹は豊を入部させるとともに、顧問に掛け合って、当面の間、豊を通常の部活の練習とは切り離すことと、友樹が豊の面倒を見ることの承認を得て、豊の練習用に端っこの1レーンの半分25m分のスペースを確保した。

 顧問も特に秀でた教師というわけではなかったのだが、流石に、事情も空気も読まずに生徒を窮地に追い込むほどの酷いバカをするような先生ではなく、しかも、生徒が積極的かつ建設的な提案をしてきたのなら、それを無碍にするわけにも邪魔するわけにもいかなかったので認めるしかなかったようだ。

 かといって、大いに助けになってくれるようなこともしてはくれなかったのだが、友樹はそれで十分、それが十分だと思っていた。

 下手に熱血なんか注がれたら、それこそ、注目を浴びてバカにされる危険性が高まる。さらっと放っておいてもらえるのが一番助かるのだ。


 豊が新入部員として自己紹介することになったときに、確かに、小さなクスクス笑いやひそひそ話は起こっていた。

 でも、練習が完全に別行動になってしまうと、部活の開始と終了時にしか他の部員との接点が無く、特に何の軋轢も摩擦も生じていなかった、ようには見えた。

 ……ただ一人の例外を除いて。


 水泳部部長を務める三年生、花岡 隼人(はなおか はやと)。

 学年は一つ上になるものの、友樹とは家が近く、ずっと同じ学校を経てきている。

 そのせいなのかどうか分からないが、隼人は妙に友樹に突っ掛かることが多い。別に、友樹の素行が悪いわけでも何でもなく、水泳部の中でも目立つ存在では決してないのに、だ。

 一方、友樹は極力、この隼人とは距離を置こうとしていた。

 それは、家が近いが故に過去を良く知られている可能性が高かったからだった。

 子供の世界は一学年違うだけでも結構分断されるものだが、しかし、それでも、あの男女騒動を隼人が知っている可能性も高いわけで、その張本人が自分だと知られてしまったらどうなることか。

 だから、あまり親しい間柄にはなりたくなかったのだ。

 それなのに、ずーっと変に突っ掛かってくるものだから、実はもう知っているんじゃ、バレているんじゃないか、蒸し返そうとしているんじゃないか、という懸念すら友樹は持っていた。

 いずれにしろ、変な諍いを起こしたくない相手だったので、なるべくいなすようにしていたのだ。


 隼人は、なぜ部長である自分にお伺いを立てに来なかったのか、と友樹に詰問した。

 友樹は顧問の許可を取ってあることを説明したが、隼人は、

「オレは認めないからな!」

 と、へそを曲げていた。


 ただ不機嫌になるだけだったらまだ良かったのだが、どうやら、隼人は部長の権力や先輩風と同調圧力を活用して、豊に部活を続けにくくさせるような空気を醸しだそうとしていたようだ。

「泳げもしねえくせに、なんで水泳部に来るんだよ。それに、あんなぼよぼよのデブじゃ、たとえ泳げるようになっても全くタイム出せないじゃん。あんなん、居るだけでもうちのレベルが疑われるのに、1コース潰されて俺らの練習場所を減らされてるんだぜ」

 実際のところ、三年になってからの隼人は、限界を感じていたのか諦めの気持ちが生じていたのか分からないが、あまり真面目に練習しなくなっていて、部活動の時間であってもこっそり部室で麻雀に興じていたりしてサボっていることも多くなっていたので、練習場所が少々減ろうが文句を言う筋合いではなかったはずなのだが、それでも、隼人と隼人に親しい仲間達を中心として、このような論調が徐々に広がり始めていた。


(こちらは体験版です)

第2章 水面下でバタつく足


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第3章 藻掻いても引きずり込まれる


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第4章 白濁に溺れて


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第5章 突き破れた水底


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第6章 抜ける幼毛


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第7章 ぽよぽよ白鳥(スワン)


(こちらは体験版です)


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みにくいアヒルの水泳男子


OpusNo.Novel-038
ReleaseDate2016-10-04
CopyRight ©山牧田 湧進
& Author(Yamakida Yuushin)
CircleGradual Improvement
URLgi.dodoit.info


個人で楽しんでいただく作品です。

個人の使用範疇を超える無断転載やコピー、
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