艶声よ高らかに響け 体験版
【まえがき】
※[ご注意ください]
【あらすじ】
尊敬する恩師の艶やかな声に魅了され、その艶声を自ら出したいと願うアレッド。あり得ない指導により開眼することができたが、同時に厄介な魔性をも発掘してしまう。
恩師はそんなアレッドの魔性を宥め治めながら、アレッドの艶声を守った。しかしそれは、単にアレッドの才能を守るためだけではなかった。
ステージの最高峰に登り詰めて始めて出会う大物歌手。明らかになる恩師とのかつての縁。
同じ才能、異なる境遇にアレッドの起こした行動とは。
【主な登場人物】
本格のボイストレーニングを始めて、もう一年が過ぎた。身体の全細胞は約11ヶ月で入れ替わるって話も聞くから、身体作りにも相当気を遣ったつもりだ。
でも、録音した声を聴く限り、今の僕の声は一年前の僕に勝てていない。僕を良く知る人の中には『あいつはトレーナーに潰された』などと陰で言う人も居るということも風の噂で聞いている。
僕が声の才能を見出されたのは大学に入ったときだった。なんとなく入ったグリーの部で、そこの指導者に見出されたのだ。元々、歌自体は嫌いではなかったが、歌う機会などほとんどなかった。しかし、運動部などで無理な身体使いや無理に声を出すようなこともなかったので、成長期に変な癖を付けずに欠点の少ない骨格に育ったということらしい。努力以前の素養の点で、僕には可能性が満ちているということだった。
僕はそのグリーの部でパートリーダーとソロを経験して、大学卒業後には歌手という道が開けていた。
しかし、歌手としての才能を磨くはずのトレーニングで、僕の声には雲が掛かってしまったのだ。
僕は悩んでいた。今ならまだ、普通に就職することもできないことではないだろう。辞めるんだったら、早く決断した方が良い。
いつものトレーニング。珍しく、専属のトレーナーが急用で、代わりのトレーナーが付いてくれた。
練習を始めるなり、
「あ~ぁ、こりゃ、随分無理に弄られてるなぁ。君の体格なら、素直に出すだけでも相当な良い声が出るはずなんだがなぁ」
「あ、わ、分かってもらえますか?」
僕は驚いていた。一声でここまで見抜いてくれるなんて。もしかしてこの人なら、僕の声を蘇らせてくれるんじゃないだろうか。
僕はボイスレコーダーを取り出して、昔の僕の声をトレーナーに聴いてもらった。
「あぁ、なるほどな。うん、うん、そうだな。響き自体はまだまだだけど、ゆとりがある、伸び代のある豊かな声だな。これは勿体無いな」
「僕はこの一年間、努力を重ねてきたつもりなんです。でも、成果が無いどころか、以前の良かったところでさえ失ってしまったような気がしているんです。それで、もう諦めるべきか悩んでいるんです」
「うん、分かったよ。そしたら、とりあえず、俺の言うとおりにしてみてくれるかな?」
「はい、よろしくお願いします!」
僕はそれから、一所懸命、トレーナーの指示を仰いでいた。
よく、喉を開け、とか、欠伸の喉とか言われるけれど、ただ闇雲に開こうとするだけでは、無理な力みが入ってしまうだけでなく、籠もった声、雲った声になってしまう。それだけじゃなく、音程もフラット傾向が強くなってしまう。
そもそも、その開こうと意識している位置が高いと、発音すらぼやけて歌詞がまともに歌えなくなる。音楽表現なんてできる余裕が無くなってしまう。
大切なのは、気道全体を太く保つ意識を持つこと。むしろ、喉より上の領域は、発音や音程の高さ、音楽表現によってはわざと狭くしても良い部分だ。この部分はもう、音色を決定付ける部分なのだから。
地声はNGだけど、だからといって、籠もらせたり、鼻声にしたら良いというわけでは決して無い。ともすると、響かせることと、籠もらせることを取り違えてしまうことが多い。なぜなら、練習している本人は自分の身体の内側に生じている音も同時に聴いてしまっている。篭もらせると内側の音が響いて、響きが増しているような気になってしまうのだ。
力を抜いて、自然体なんて言われるけれど、本当に全身の力が完全に抜けた状態でちゃんとした発声ができるはずもない。無理、無駄な力み癖は取り除いて、必要なところには必要なだけの力を入れる。そして、それは決して競技のような一発勝負の極限の力ではなく、大抵は長時間持続可能な力加減だ。場合によっては相当意識しないと認識できないほどの小さな力で十分なのであって、大雑把に捉えると力が入っていない、脱力した状態とも捉えられてしまう程度で、人によってはそれを自然体と表現したとしても不思議ではないくらいだ。
姿勢だって、頭のてっぺんに紐を付けて、ぶら下げられたように自然に真っ直ぐが理想と言われるけれど、理想を意識した姿勢を先に決めてしまうと、それが発声の妨げになってしまう場合もある。本当に良い発声のできる姿勢がそれなのか、場合によっては、少し首を縮めるくらいの意識からスタートして、良い発声のできる状態をキープしながら、自然に真っ直ぐ伸びた姿勢を目指していった方が望んだ結果が得られ易いかもしれない。
高音なら頭声、低音なら胸声、なんて単純に区別するものじゃない。頭声をきちんと出すために必要な意識が必ずしも頭にあるわけではない。自分がどこに意識を置いたら、狙いの声が出せるようになるのか、自分で探して、見つけて、覚える必要がある。人によっては、胸声を意識した方がスムーズな高音を出せるケースもあるのだ。
この、偶然、今日代役として僕に付いてくれたトレーナーは、人の言葉では伝わりきらないところ、誤解を生んでしまい易いところを徹底的に潰して、解消してくれた。僕はまだ、この一年間で積み上げてきた悪い癖を全て消し去ることができてはいなかったものの、それでも随分と楽に発声できるようになっていたことを実感していた。
ちゃんと決まると、肺の辺りから頭までスカンと音が通る空洞のようなものが認識できる。俗に言う、声が通るようになる。これが例えば力み過ぎたり、意識し過ぎて頭に血が上るだけでも何処かしらが塞がってしまって籠もってしまい、それが原因で無理をして響かせようとする悪循環に陥ってしまうのだ。その悪循環を今、やっと断ち切ることができたのだ。
「さ、今日の成果を確認してみようか」
発声練習のメソッドを行うと、この一年間で出なくなってしまっていた高音が楽に出る! それどころか、一年前でも出すことができなかった音が出せた。
続いて
ボイスレコーダーに記録した演奏を再生してみる。この一年間、全く超えることのできなかった一年前の僕を、今日たった一日であっさりと超えることができてしまっていた。
僕は演奏を聞きながら、涙を流していた。辞めようとまで思い詰めていた自分が救われた。そんな、喜びの涙だったかもしれない。
「苦労してたんだな……」
トレーナーがしみじみと呟いた。
僕はまだ涙の乾かぬ顔を、涙を拭くことも忘れたまま持ち上げる。
「あの、これからも教えてもらえませんか? 僕はあなたに教えていただきたいことが沢山あるんです」
「それは構わないんだけど、君には専属のトレーナーが居るんだろう?」
「今のトレーナーさんにはお断りを入れようと思います」
「そうか。……分かった。ただ、角は立てないようにしてくれよ。今のトレーナーさんだって一所懸命にやってくれていたはずだろうからな。人には合う合わないがあるから、それがちょっとうまく噛み合っていなかったということなんだろうからな」
「はい、必ず穏便に治めます。宜しくお願いします」
絶望の縁から僕を救ってくれたトレーナーは、
ただ丸いだけでなく、ちょっと目立つくらい胸板が厚く発達していて、西郷さんの発声はこのがっしりとした胸板を中心に共鳴して身体全体から響きが発せられるように感じられた。
身体の大きさがハンデになるのか絶対的な声量の点だけで言うと、今の僕でも勝負ができる程度だが、圧倒的な艶と豊かな響きがあって、その声は僕を一瞬にして虜にした。
西郷さんの綿密な指導に、僕の誤解は解け、理解が深まる。日々、成長できているという実感が湧いて、充実したトレーニングを重ねることができた。
でも、僕の声の艶やかさは西郷さんに遠く及ばない。西郷さんのような艶が僕の声にも欲しい、僕はそう思い始めていた。
「西郷さん、どうやったら、西郷さんのような艶やかな声が出せるようになるんですか? 僕の声にも西郷さんのような艶が欲しいんです」
「俺は、アレッドの素直で自然な声が良いと思うがなぁ。下手に癖を付けると、また、スランプに陥りかねないぞ……」
「あの、癖を付けたいわけじゃなくて、その、都合の良い話かもしれないですけど、今の僕の声に艶やかさも加えられるようになれたら、って思うんです」
「ふーむ……」
西郷さんは急に僕の身体をジロジロと舐め回すように見詰めた。艶やかさを身に付けるために必要な素養が備わっているか判断しようとしているのだろうか。
「アレッド、長く活躍し続けられる歌手にはどんな特徴があると思う?」
西郷さんから急に投げ掛けられた質問。僕は答えに困った。
確かに、僕はもっと上手くなりたくて、それが僕の生きていく道にも繋がるとは思っていた。でも、逆に成功者がどうあるのかという観点での分析はまともにしたことがなかったのだ。個々の歌手についてなら言える。でも、成功者に共通する特徴なんて?
「教科書的な答えを言うと、声や歌い方が多くの人に受け入れられている、ってことなんだが、そんな表層的な答えは誰でも分かることだし、さっきの問いの答えにはならない。長く活躍し続けられる歌手に共通する特徴、それは、セックスアピールが強いってことなんじゃないかと俺は思っている」
「セックスアピール?」
「そう、『声で相手を堕とす』、ってことだな」
「そ、そうか、僕が西郷さんのような声を欲しているのも、西郷さんの声に堕ちているってわけですね。納得しました。そうか、声で堕とす、か……でも」
「でも、何だ?」
「それってどうやったら、身に付くものなんでしょうか? と、言うか、身に付けられるものなんですか?」
「うーん、そこなんだよなぁ。生まれ持っている人も居れば、頑張っても身に付けられない人も居るからなぁ」
「西郷さんは、僕にその可能性があると思いますか? しょ、正直に言ってください。お願いします」
「今の時点じゃ、俺にはまだそこまで見抜けないな。すまないけど」
「……そうですか」
僕はなんだかしんみりとうなだれてしまった。まだ、可能性を否定されたわけでもないのに、あれだけ僕の発声を伸ばしてくれた西郷さんの口からお墨付きの言葉が聞けなかったことが、やんわりと可能性の無さを示唆しているような気がしたのだ。
「アレッド、お前はスケベか? エロいことは好きか?」
「え? あ、あの、その」
「言い辛いか? 恥ずかしいか?」
「はい、あの、やっぱり恥ずかしいですね」
「でもなぁ、歌っていうのは、そういうものと紙一重なところもあるんだぜ。曲や歌い方にも拠るけどさ。お前、人の歌を聴いていて『まるで喘ぎ声のようだ』と思ったこと無いか? 『その人とのセックスが想像できてしまうようだ』と思ったこと無いか?」
僕は衝撃を受けていた。僕が好んでいた歌手に対して、今の西郷さんの言葉を当て嵌めてみると、思い当たる節があったからだ。
「あ、ああ、あります。ありました」
「俺らは生まれた時から言葉というものがあって、人の声に対して意味付けをしてしまっているから、逆に気付き辛くなっているところもあるんだけどさ、元々は何らかの感情を表すために声は生まれたのであって、今でも意味ではなく感情を表す声というものはあるだろう?」
「確かに、そうですね」
「その中でも、求愛の声というものは大きなウエイトを占めるものであったはずだ。でなければ、今の音楽界や声を主体とした業界がこれほどまでに大きなものにはなっていないと思うんだよな」
「なるほど。……でも、そういうことを
「そりゃそうだ。余りそういうことを表に出さないようにしていた時代が長く続いてしまったからな。いつしか存在そのものを見失ってしまった人の方が主流になってしまったとしても何ら不思議は無い。それにやっぱり、大っぴらに表に出せば良いってもんでも無いしな」
「そうですね。さじ加減が難しそうですね」
「というか、表向きは普通の音楽表現を装っていて、潜在的にエロスを詰め込むって感じだしな。それを平然とやらなきゃいけないんだぜ。一所懸命な感じが滲み出したら、それはもうエロじゃないからな。……お前にできるか?」
「うっ、……あぁ、でもできることなら、そういう声も出せるようになりたいです」
「ちょっとお前さん、真面目過ぎる嫌いがあるからなぁ。まぁ、いいや、ちょっと意識して、これ歌ってみ?」
僕は自分なりに今の教えに沿って声を出したつもりだった。でも、歌い出してすぐに中断してしまった。西郷さんが笑い転げてしまったのだ。
「お前、やっぱりまだ、大人の色気が分かってねぇなあ。ガキのAVごっこじゃねえんだぞ」
僕は顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。僕にはまだ早いのか、それとも、僕には才能が無いのだろうか。
西郷さんは笑い終えると旧に真面目な顔になって僕を見据えてきた。
「……ちょいと荒療治になるがな、付いて来る気はあるか?」
「ぼ、僕にも出来るようになるんですか?」
「まだ、分からん。でも、今すぐなんとかしたいなら、ちょっとばかしきついことしないと、今のままじゃ可能性があるのかどうかも見えないからな。ただし、本当にショックを受けるかも知れないし、きついかも知れないぞ。それでも、付いて来る覚悟がお前にはあるか?」
「あ、あります! 僕はもう一年間を棒に振っているんです。多少のことで躊躇なんてしていられません」
「よし、分かった」
西郷さんはやおら立ち上がると、僕に近付いてきた。僕の目の前まで来たところで、西郷さんは僕の方を向いたまま、僕の背後へと回って行く。そして、背後から西郷さんは僕に密着し、両手を回してきた。
そのこと自体は別に驚くことでもなんでもなかった。発声のトレーニングは如何にして全身を協調させて良い響きを創り出して行くかが勝負だ。身体の意識をハッキリとさせるために、意識させたい箇所に直接接触することなどざらにある。そうやってみんな全身の意識を高め、己の身でバランスを取り、コントローラブルにして行くのだ。しかし、……
「!!」
西郷さんは回してきたその手で、僕の股間を直接掴んできた。流石にこれは無い。
「に、に、西郷さん。こ、これは?」
僕は上半身を捻って西郷さんの方に向こうとしながら問い掛けた。
「発声のトレーニングだ。ちゃんと意識しろ」
西郷さんは事も無げに答える。意識しろと言われたって、こんなところを意識したら……
それでも僕は徐々に意識を高めて行かざるを得なかった。腰裏を中心に僕のバックボーン全体に広がって行く西郷さんの熱気。そして、ジーンズの上から連続して繰り返される揉み擦りの刺激。圧縮空気ボンベに膨らまされるゴム風船のように、順調に充血し、膨らみを増してゆく。
「あいたた」
少し位置が悪くて突っかかってしまった。僕が少し身を引いて屈むと、西郷さんはそれを察してか手を緩める。僕は惰性でそのままポジションを直す動作をした。引っかかりが無くなると、再び全開に向けて膨張し、ジーンズの内側がパンパンに満たされた。
西郷さんは淡々と刺激を繰り返してくる。しかし、僕の方は、ジーンズの上からの刺激ではでは物足りなくなってくる。それに、より敏感な竿先の方にはあまり触れてくれない。
「どうだ? どんな感じがする?」
「あの、も、もどかしいです」
「そうか、まだまだだな」
西郷さんはそれだけ言うと、変わらずに緩い刺激を繰り返す。でも、心なしかさっきまでよりも焦らされている感が強い。僕は切なくなって思わず甘い溜め息を吐いた。
「はあぁ……」
「おっ、良いぞ。始まったな」
西郷さんはあからさまに僕の竿を掴む。でも、それは刺激を与えるためではなかった。
西郷さんは掴んだ竿ごと手を押し込んできた。恥丘と腹の張り出しの丁度中間の辺りに西郷さんの半握り拳がめり込み、その上の、
「ここの中だ。身体の中心だ。ここに意識を集中してみろ」
言われたとおりに意識を集中してみると、押し込まれた箇所の奥の方がジンジンと疼いている。その中心には、生の根幹と性の欲求の塊があるように思えた。頭や心臓ではない、心の底と身体の奥底はきっとここにある。
そして、欲求の塊は励起されながらも焦らされ続けた結果、存在感をどんどんと増して行く。感覚的には既に、物理的な自分の身体をはみ出すほどに巨大化していた。
堪らない。僕はこれをどうにかしたくて堪らない。このままじゃ、とても治まりが付かない。
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艶声よ高らかに響け
OpusNo. | Novel-032 |
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ReleaseDate | 2016-03-07 |
CopyRight © | 山牧田 湧進 |
& Author | (Yamakida Yuushin) |
Circle | Gradual Improvement |
URL | gi.dodoit.info |
個人で楽しんでいただく作品です。
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