秋葉原発上野行 体験版

Cover


【まえがき】


※[ご注意ください]



【あらすじ】


 想像してみてください。

 もし、今、すぐそこに、若くてぷくぷくと可愛く肥えている、まだ歴の浅いひよっこのオタクが居たとしたら。


 このままオタク道にハマっていって、異世界の住人になってしまうにはちょっと惜しい人材です。

 見つけたら、即座にポイントを設置して、別のレールを敷いてあげましょう。


 きっと、彼のテリトリーは、今この場所から、駅2つ分ほど移動してしまうことになるに違いありません。


【目次】


表紙

まえがき

あらすじ

秋葉原発上野行

奥付

秋葉原発上野行

 アイドルの聖地、秋葉原。

 ここは昔から、最先端オタクの巣窟だった。

 古くは、電子部品を買い漁るエレキオタクから、パソコンオタク、フィギュアオタク、アニメオタク等等。

 近年では、メイド喫茶に足繁く通うメイドヲタ、そして最近では、身近なアイドルに会いに来るアイドルヲタ。

 一時期、メイドヲタとアイドルヲタの領域はかなり被っていた。


 オタクといえば、対象物にのめり込むあまり、身だしなみや表情、相手に与える印象など、自分のことには無頓着になってしまう者も多く、いわゆる『キモオタ』と呼ばれてしまう人種も長年に渡って多数生み出され続けているのが実情だ。

 それで不精を誤魔化しているつもりなのか、後ろ髪をゆわいてみたりしているが、圧倒的な運動不足とインドア率の高さを起因とする擦り切れることの無い伸びきったボウボウの腕毛と、同じくらい長い不精髭を蓄えて、『何日同じ格好で何日風呂に入ってない?』と、聞きたくなるような染み付いた完熟体臭を身に纏い武装して、その臭いを彗星の尾のように長く棚引かせながらこの街だけを闊歩している。


 しかし、目を凝らして、よく見てみると良い。


 十把一絡げに見てしまいたくなるような集団の中に、キラリと光る、逸材が潜んでいることが稀にある。

 確率にしたら、1%にも満たないかもしれないだろうが、百人に一人いるかいないかくらいの割合で当たりに出くわすことができるのだ。


 彼らはまだ、オタクとしての年季は浅い方である。すなわち、彼らは大抵若い。

 オタク道としてはまだ序ノ口で、のめり込み具合も、自分をほったらかしている度合いも、まだまだ弱い。

 いや、弱いという言い方は少し語弊があるかもしれない。

 彼らはまだ、『もしかしたら自分でも』、という微かな期待を、心の中のベッドの下に隠したつもりで置いてある。そして、それがまだ風化しないでピカピカのまま残っていたりするのだ。

 だから、彼らの対象物へののめり込み加減にも、まだ、若干の照れや遠慮が見え隠れする。

 そう、一言で言って、『初心うぶ』である。


 例えば、もう幾ら後悔してもやり直すことなど不可能だからこのまま突っ走っていくしかない、というところにまで到達してしまったレジェンドクラスのヲタなんかとは比較にならないほど、彼らはまだまだ世間一般的にまともな部類だ。

 表面上、自分のルックスはとっくに諦めているものの、アーミールックで身嗜みを誤魔化すほどスレてはいない。

 内心では自分なりに頑張っていて、ほんのり格好付けてみたりして、まだ完全に色気を捨てきれていなかったりする。

 『自分は当事者なんだ』、という意識がどこか根底に、微かに残っているのだ。

 彼らはまだ、『どんなに頑張っても傍観者という存在に成れるまでが精々なのであって、主役にも、いや、脇役にすら決してなれないのだ』、という現実を受け入れきれていないのだ。


 そんな烏合の衆の中に、ダイヤモンドは突然現れる。


 彼は、自分のルックスの価値を全く分かっていない。

 自分とは全く異なる存在である対象物を崇めるあまり、自分を無価値なものと勝手に落とし込めてしまっていて、価値観が異なる人の存在に気付いていないのだ。

 年季の浅い不精は適度な脂肪と皮脂の艶を与え、恋愛感情をも超越した熱烈なファン心理は豊かなホルモンの分泌を促した。

 ヲタとしての片鱗を見せる挙動不審度とコミュ障属性を遺憾なく発動しながらも、イキイキとヲタ活動を展開するアイドルヲタ若デブ。そのポテンシャルや、かなり、高いものがある。


 何しろ、彼の知識、経験、思想、思考、全てが偏りまくっていて、しかも、狭くて尖っている。なのに、若くて、まだ柔らかいところも残っている。

 そんなだから、その先っぽを引っ掴んで、エイっとひん曲げてしまえば、あっけなくコロッと宗旨変えも辞さない可能性がある。

 彼の意識のテリトリーから外れている空白のままの想定外地帯に、ポンと一石投じてやれば、波紋に驚いて思い切り動揺する。

 大きな動揺は感動に繋がり、やがて、新たな発見としてその身に深く刻み込まれることだろう。


 今日は、久し振りに特別な上物を見つけた。

 彼を戴かない、などという手は、あり得ない。




「あの、すみません」

 俺は、彼に真っ直ぐ近付くと、たまたま偶然、声を掛けたのが彼だったというていで、彼に話し掛けた。

「ぇ?」

 早速、怪訝そうな顔。

 まぁ、見ず知らずの男に声を掛けられたら、当然、そんな顔にもなるだろう。だが、このはそんな顔でもほんのりと可愛い。

 しかし、それでも、彼は絶対にこちらを直視はしない。チラ見はするが、すぐに視線を外す。これが、若いアイドルヲタならではの特徴だ。

 周りの目を常に意識し過ぎていて、普通に相手を見ることができない。

 僕はHなことには興味ありません、と、優等生を気取っていながらも、ついつい盗み見してしまう。

 そんな癖が日頃から身に染み付いてしまっているから、誰が相手であっても、こんなコミュ障みたいな目配せをしてしまうのだ。


 俺は気にも留めない素振りで、彼の持っているウチワを指差して続ける。

「あの、メユメちゃんのファン、ぁぃゃ、メユメちゃんし、なんですよね?」

「ぁ、ぁぁ、まぁ、そう、ですけど」

「その、俺まだ歴が浅くって、推しメンがまだ決まってなくて、メユメちゃんどうかなって思っているんですけど、ちょっとメユメちゃんの魅力とか、教えてもらえませんでしょうか?」

 彼は困惑気味だ。普段、こんな風に話し掛けられることなんて、まずあり得ないことだろう。

 だいたい、普通こういうものは自らのめり込んでいくものであって、教えてもらうようなものでも無いしな。

「ぇ? ……でも、まぁ、話せば長くなりますけど」

 いきなり、滔々と語り出したりしないのは、まだ俺に対する警戒心が強いからだ。

「ええ、もちろん、その方が、よりメユメちゃんの魅力が分かるってもんですよね。メイド喫茶奢らせてもらいますんで、ちょっと聞かせてもらえませんか?」

「ぁ、なら、はい、まぁ、良い、ですけどぉ」


 やっぱ、こういうのは、まず、相手の欲求を満たしてあげないとね。

 普段から、萌えあがる想いを抱えて、でも、それを吐き出せる場所はSNSだったり、会場だったりくらいしか無いのだろうが、そんな場所は既に同じような人間達で溢れかえっていて、そこで想いを熱く語ったところで、そこらの人と一緒。レベルが近いから話は通じるが、ついつい、ただの語り競争に陥ってしまいがちだ。

 だが、ここでの話し相手はずぶの素人の俺。俺相手になら、絶対的に彼は教えてあげる上からの立場。彼は優越感に浸りながら、その知り得る全てを、こちらが理解しようがしまいが、一方的に語り尽くしてくれることだろう。

 実際のところ、その話の内容には全く興味が無いのだが、そこは仕方がない。

 のっけから、『興味があるのは君の身体だけだ』、なんて言ってしまおうものなら、即座に気味悪がられて逃げられてしまうことだろう。

 しばらくは名前を聞くことも、こちらから自己紹介することもしない。そういうことは、もっと打ち解けて、『もっと話しても良いかも』、と思ってもらえてからの方が相応しい。

 お互いに個人情報を教え合う必要がある、とまで思わせるほどの空気感が醸し出せるところまで打ち解ければ、自ずと名乗ってくれるようにもなるってものだ。


 彼の話にずっと耳を傾けて、ちょっと彼が話のネタを探すのに時間が掛かるようになった頃合いから話題を脇道に逸らさせて、メイド喫茶の店員だったら誰が好みか、とか聞いてみたりする。

 そして、その店員とメユメちゃんだったら? って聞こうとすると、彼は食い気味に、

「だって神だもん」

「え?」

「メユメちゃんは神だもん。神が降臨してきたんだもん」

 これだ。

 若さ溢れる、視野の狭さと猪突猛進度合い。対象物を崇めたて、勝手に宗教化して、自らを奴隷化する狂った謙遜の無制限ループ。


「そ、そうだよねぇ」

 俺は若干引きつつも、チャンスの到来を察知した。

 彼に嫌われないように話を合わせつつも、俺はその話の先端を握って、捻じ曲げを試みる。

「でもさぁ、そんなにメユメちゃんのことが好きなんだったら、その、メユメちゃんと、シたいとか、思わないの?」

 すると、彼は一気に顔を赤くした。

 具体的に何とは言わなかったのに、完全にアレのことだと思い込んでいる。だけどそう、正解だ。彼は分かっている。

 しかし、それでも彼は、『僕はそんな邪なことは考えたこともありません』、とばかりに、ポーカーフェイスを装っているつもりだ。可愛い。

「メユメちゃんは、神だもん!」

 恋愛対象以上の存在だということを言い表したいのだろうが、今どきの若者らしく、語彙が足らなくて表現しきれないみたいだ。

 だが、俺は彼の本心を引き出したいのではない。彼が持つ、抑えの利かない貪欲な性欲を引き出したいだけなのだ。


「え? じゃあ、彼女とかは別に居たりするの?」

「ぅ、そんなの、要らないし」

 居るか居ないかを聞いているだけなのに、『不要だ』、と痩せ我慢で格好付けたつもりの彼。

 ここで、間違っても『彼女居ない歴は何年?』なんて聞いてはいけない。彼の自尊心が傷付いてしまう。

「じゃあ、一人でHするときは、誰としているつもりでするの?」

「ぅ」


 冷静な彼だったら、そんなプライバシーどっぷり侵害の質問なんか、『あなたに答える義務などありません』とでも、突っ撥ねることができるはずだ。

 だが、彼が崇め奉るメユメちゃんを絡めて振り向けた結果、冷静さを失ってしまっている彼は、その質問が門前払いしても良いものだということに気付けないでいる。

 さあ、返答に困ったっぽいぞ。ここで、もう一捻り。

「神とHしちゃう?」

「……」

 彼は顔を真っ赤にしながらも、何かしら返すべき言葉を探しているみたいだったが、それ以前に、普段の一人Hの妄想が目の前をちらちらと何度も横切ってしまって困っているみたいだった。


 もう一度『メユメちゃんは、神だもん!』が発動してループに陥る前に、こっちからもう一押しだ。

「神とは、握手までしか出来ないよね?」

「ぃ、ぃ、良いもん。それだけでも充分だもん」

「でも、勿体無くない? それじゃ、誰ともできないじゃん」

「だって、僕としたいなんて思ってくれる人なんて、この世に存在しないもん」

 来た! トリガー反応が来た! これより勝負開始!


「そんなこと無いよ。ここに居るよ」

「ど、どこに?」

 キョロキョロとあちらこちらに目を泳がせまくる若デブ君。頭を動かさずに、目ん玉だけをぐりぐり動かして四方八方を確認するのは彼の大得意とするところだ。

 ときどき、片方の目が追い付かなくて動きが遅れて、斜視っぽくなったりする瞬間があるんだけど、それもまた、このぷくぷくほっぺのくりくりお目目だと可愛く見えるものだ。


 彼のセンシング走査が一巡して、動きが鈍ってきたところで、

「今、君の目の前に居るよ」

 すると、彼は得意の一瞬チラ見で、俺の姿を確認した後、彼の標準姿勢である、やや俯き加減でこちらを見ないままの格好で言う。

「じ、冗談キツいなぁ。ほ、ほ、ホモなんてキモ過ぎる」

 『ホモ』という単語を口にすることにも躊躇いがあるようだが、それ以外に 彼の語り口には特に変わった様子もなく、今までと同じ調子には聞こえたのだが、恐らく、それなりにショックはあるはずで、そのままだと、やがて拒絶反応に至ってしまうだろう。

 そうなる前に、彼の性欲を引っぱり出させて、躊躇や拒絶よりも性欲が勝つ状況にさせたい。


「君のをしゃぶるだけだよ」

 これだけじゃ多分、気味悪がられる。俺は即座に次の言葉を付け足した。

「君は誰かにしゃぶられたことってある?」

「ぅ」

 よっしゃ、言葉に詰まった。脊髄反射で拒否られなかった。彼のちょいとばかし励起してしまった盛大な性欲が、迷いをもたらしているんだ。


「試してみたくない? 目を瞑っていれば、男だなんてほとんど気にならないよ」

 『全く気にならない』なんて言ったら話を良いように盛っていると思われてしまう。ここは正直に、むしろ控えめに言う。

「……」

「メユメちゃんにしてもらっている、って思っていれば良いじゃん?」

「め、メユメちゃんは、神だもん!」

 ループ台詞が出たが、既にポイントは切り替え済みだ。状況は脱線してレールの無い大空へと飛び立っている。


「神に舐めてもらっちゃう?」

「ぅ、そんなこと言われても」

 彼はたじろいだ。

 良し、ここで、彼の虚栄心を引き出してやる。これで、チェックメイトだ。

「ひょっとして、『怖い』とか、思ってる?」

「こ、怖いわけないじゃないですか。良いですよっ。僕のなんかが舐めれるもんなら、舐めてくださいよ!」

 よっしゃ、最高の捨て台詞キター!


 なし崩し的に口約束の契約までは引き出せた。

 ここから先は、彼に冷静さを取り戻される前に、逃げる猶予を与えることなく、実践にまで漕ぎ着けることが肝要だ。


(こちらは体験版です)


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秋葉原発上野行


OpusNo.Novel-031
ReleaseDate2016-02-06
CopyRight ©山牧田 湧進
& Author(Yamakida Yuushin)
CircleGradual Improvement
URLgi.dodoit.info


個人で楽しんでいただく作品です。

個人の使用範疇を超える無断転載やコピー、
共有、アップロード等はしないでください。

(こちらは体験版です)

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