雨 体験版

Cover


【まえがき】


※[ご注意ください]



【あらすじ】


 お互いを虜にするほど相思相愛となったリチャードとライオネル。しかし、より相応しい男になりたいと一時の別れを決断し、離れていくリチャード。

 リチャードを待つライオネルにはちゃんと解決できていないまま燻っていた恋心が一つ、記憶の底に眠っていた。


 過去を蘇らせてしまうような男との出会い。

 戸惑いながらもライオネルの取ってきた言動の真意は、戻ってきたリチャードの成長した考えによって気付かされて明確化し、ライオネルは引き摺ってきた過去に決着を付けることができた。


 お互いの問題を一つずつクリアして、より親密になる二人の愛の物語。Fitzpatric続編。


【主な登場人物】






【目次】


表紙

まえがき

あらすじ

主な登場人物

第1章 寄り添うための別れ

第2章 過去との再会

第3章 過去の誘惑

第4章 今再び一歩踏み出す

第5章 それぞれの昇華

第6章 今と未来に祝福を

奥付

第1章 寄り添うための別れ

 雨の降る日は、一日中抱き合っていたあの日を思い出す。

 人は一つの個体として生まれ、誰しもがたった一人で死んで行くというのに、何故他人の温もりを求め続けるのだろう。




 リチャードがオレの元を離れて、もう四ヶ月目に入る。かつて、あれほどオレの傍に居たがっていた奴の口から、あんな言葉を聞くことになるとはな。


 事は、リチャードの新たな就職先で出向の打診を受けたところから始まる。オレがそれを知ったのはオレの部屋で二人で夕食を摂っていたときだった。


「ライオネル、実は俺、今日、出向の話を持ち掛けられたんだ」

「ぇえっ? 随分と急な話じゃないか。まだ入社して間もないのに。それに、オマエのところに出向なんてあったのか?」

「いや、それが、新規事業立ち上げによる新事務所の開設なんだそうだ。成功必達の為に厳選したスタッフを送り込みたいということらしいんだ」

「それは凄いじゃないか!」

「体の良い肩叩きじゃなければ良いんだけどな」

「で、場所はどこなんだ?」


 その出向先は、休日に逢おうとするにも少ししんどいほどの遠い道のりにあった。ましてや、仕事の内容からしてハードそうで、それどころじゃない可能性も高い。流石にオレも何て言ったら良いのか言葉に詰まる。


「ライオネル、もしお前に何かしらの思いがあるなら、俺はその思いを汲み取りたい。俺も、俺なりに考えてみるよ」


 オレはしばらく考えた。でも、オレには結論が出せなかった。リチャードがより輝いて行くのであれば、オレには止める理由なんて無い。でも、長い間会えなくなることを考えると……、オレだって、リチャード、あのときのオマエのように寂しさで正気を失ってしまうかもしれない。オレだって、オマエに会えなくなるのは耐え難いほど辛いことなんだ……。


 数日後、オレはリチャードの思いを聞いたが、その内容はオレの想定範囲を大きく外れていた。


「俺、行ってみようと思う。ライオネル、お前と離れたくはない。その思いは今でも変わらない。いや、むしろ、俺がお前と離れたくないから選んだ決断だと思って欲しいんだ」

「……それは、その、つまりはどういうことなんだ?」

 オレはリチャードの意図を直ぐに汲み取ってやることができずに、情けない質問をした。

「俺がお前に見合う男になるため、俺がお前とずっと一緒に居られるようになるためのステップだと考えたんだ。このまま突っ走って行っても良い。でも、今の俺では少し至らない。ここは一時、グッと堪えて、もう一つ成長する必要があるんじゃないかと思ったんだ。その方がもっとお前と寄り添って行ける。そう思うんだ」

「……」

「お前はどう思う? お前の胸の内を聞かせてくれないか?」

「……オレは、オレには答えが出せなかった。オマエのステップアップになるのなら、喜んで送り出すべきだ。でも、やっぱり、寂しいって思いもある……」

「ありがとう、ライオネル。寂しいって言ってくれて。お前が寂しくなったら、他の奴で寂しさをうずめても良い。俺が必ず、お前を取り返しに来るから」

「リチャード……」

「我侭を言って済まない、ライオネル。俺はお前と離れたくない。俺はいつも、どうしたらお前とずっと一緒にやっていけるか、それだけを考えている。そのことだけは、ずっと覚えていて欲しいんだ」

 オレは言葉を出すことが出来なかった。ただ、言葉の代わりに精一杯、リチャードを抱き締めた。それしか、出来なかった。




 別れの日が刻一刻と迫ってくる。それがオレにはなんだか信じられなかった。オレはリチャードを愛している。そして、オレはリチャードに嫌われてもいない。なのに、離れるなんて。


 リチャードが旅立つ前の日は、一日中雨の降る休日だった。お互いの想いが形に現れたように、雨は一向に止む気配を見せなかった。オレ達はその日、ずっと部屋で、二人きりで抱き合っていた。

 オレ達は一つ一つ、再確認を繰り返しながら抱き合った。お互いの熱を、お互いの触感を、お互いの匂いを、お互いの心を染み込ませ続けて、忘れないように、消えないように、せめて、なるべく長く残るように……。


 リチャードを見送るとき、オレは涙を堪えきれなかった。リチャードも泣いていた。でも、オレはそれで良かったと思っている。様々な想いがあるけれど、それを総じて表現するなら、やはり、笑顔ではなくて涙だろう。オレ達の未来のために今ひととき離れるという苦渋の決断をしたのだ。オレはリチャードを信じて待つ。

 とはいえ、オレもギリギリだけどまだ20代という若さで、どうにも身体が火照ってしまってしょうがないときがある。オレはついふらっと、あの界隈の店へと呑みに出ていた。




「ふぅーっ」

 最後の一口を身に染み渡らせると、オレはため息を付いた。

 なんだろう、このもやもやした気持ち。オレはいったい、何がしたくて、何を期待してこんなところまで来たんだろう。別に声を掛けたいわけでも、声を掛けられたいわけでもない。なのに、すんなり家に帰る気にもなれない。

 リチャード、ああ、オマエが近くにさえ居てくれたら、オレはただただ躊躇いもなくオマエの傍に駆け寄って行けるのに。オレの居心地の良い、まさしくオレのホームとして築き上げたはずのあの部屋が、オマエが居ないだけであんなにも物足りないものになってしまうなんて。……今のオレにはリチャードが過ちを犯したときの気持ちが身に染みて分かるような気がするよ。これが本当の寂しさというやつなんだろうな。


 オレが空になったグラスを両手で抱え込んで俯き加減のまま静止していると、

「リチャードさんはどうしたの?」

 聞き覚えのある中性的な声に、オレはもっそりと顔を上げる。

「ぁ、キミはあのときの……」

 そう、リチャードとのきっかけを作ってくれた店員だった。オレがよくオーダーする銘柄のボトルを抱えている。

 オレはグラスを差し出しながら、もう一方の手で2本指を作った。

「氷は?」

「要らないよ」

「随分姿を見かけなかったから、上手くいったんだろうなとは思ってたんだけど」

 店員が慣れた手つきで注ぐ。その流れのまま、オレはグラスに少し口を付けた。

「あぁ、おかげさまで、上手くいってるよ」

「その割には浮かない顔だね」

「今、リチャードは出向中で、ちょっと遠い所に居るんだ」

「そう、それじゃちょっと寂しいし、辛いね」

「ああ、あいつは『寂しさを他の奴で埋めて良い』って言っていたけど、そんな気にもなかなかなれない」

 オレはちょっと余計な愚痴をこぼしてしまったとも思ったが、ここはある意味そういう場所でもあるし、この店員が相手でむしろ良かったのかもしれない。

「ここはそんな寂しさを紛らわせるには打ってつけの場所だよ。適度に騒がしいし、今みたいに愚痴も吐けるしね」

 オレはちょっとクスッときた。

「ふふっ、商売上手だな、キミは。確かに、ここは丁度良い場所なのかもしれないな」

 店員はオレのことをまじまじと見詰めながら、

「それにしても、いちだんと良い男になったね」

「え? 誰が?」

「今の話の流れであなた以外の可能性があると思う? あるわけないでしょ!」

 いきなりキレる店員。

「お、オレが?」

「うん。前から良い男だなとは思っていたけど、さらに見違えるぐらい良い男になっt」

 すぐに落ち着いた口調に戻って話す店員。まるで告白でも始めるかのように。しかし、

「あの、ちょっと良いかな」

 背後から来た別の男が遮る。

「すげぇ良い男ですよね、あなた」

「え、あ、はぁ、あ、ありがとう」

 急に一遍に二人にも良い男だと言われ始めて、オレは戸惑いを隠せない。こんなこと言ってくれる奴なんて、過去には滅多に居なかった。リチャードだけは何時でも何度でも言ってくれていたが。そういえばサラも。あれっ? 滅多に居ないってほどではなかったか。

「是非、今宵、僕といかがですか?」

「え? いや、あの」

「お近付きになりたいなぁ、お近付きになりましょうよ」

「いや、あの、オレ、ここには呑みに来ているだけだから」

「そんな堅いこと言わずに、ね? ね?」

「いや、あの、本当に」

「お願い! 一発だけでも良いからさぁ」


 オレははたと困ってしまった。せっかく店員の気の利いたお喋りでオレの心が落ち着いてきたところにコレだ。言い寄ってきてくれることに悪い気はしないし、この男も言葉使いはともかく、見た目はそんなに悪くない。気分によっては遊んでみても良かったのかもしれないが、やっぱり、オレはリチャードを待ちたい。


 困ったところに気の利いた店員が助け舟を出してくれる。

「ライオネルさん、傘持ってきてる?」

「え? いや、今日は持ってきてないよ」

「今夜は天気が下り坂で夜遅くなるとかなり激しく降るらしいから、降られる前に帰った方が良いよ」

 店員がオレにウインクする。助かった。

「本当に? あ、じゃあ今日はもう帰ろうかな」

「あ、ちょっ」

「また来てね」

 オレは席を立ちながら、

「ありがとう。また来るよ」

 店員にウインクし返して、店を出た。


 店を出て行くとき、背後から、

「なんだよ! 普通、くっつける手助けをしてくれるのが店員の役目ってもんなんじゃないの?」

「あの人は別! あの人は別格なの!」

 という会話がフェードアウトしながら聞こえた。

 そういえばあれ以降、サラが妊娠・出産、そして、離婚となってしまったから、パーティが開かれることも無くて、オレも店に呑みに来ることが無かったから、あの店員とも顔を合わせる機会が全く無かったんだ。それにしても、オレの好きな酒は覚えてくれているし、随分と気の利いた店員だな。


(こちらは体験版です)

第2章 過去との再会


(こちらは体験版です)

第3章 過去の誘惑


(こちらは体験版です)

第4章 今再び一歩踏み出す


(こちらは体験版です)

第5章 それぞれの昇華


(こちらは体験版です)

第6章 今と未来に祝福を


(こちらは体験版です)


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(Fitzpatric続編)


OpusNo.Novel-011
ReleaseDate2014-12-13
CopyRight ©山牧田 湧進
& Author(Yamakida Yuushin)
CircleGradual Improvement
URLgi.dodoit.info


個人で楽しんでいただく作品です。

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(こちらは体験版です)

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